R1年5月『トニオ・クレーゲル/ヴェニスに死す』トーマス・マン

 5月の課題図書は『トニオ・クレーゲル/ヴェニスに死す』トーマス・マン(新潮文庫)でした。参加者10名、見学1名、レポートのみ参加1名の、計12名の方にご参加いただきました。

 以下、参加者の感想まとめです。


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・面白くて一気に読んだ。作者の、人生観、哲学、洞察力の深さなどが飽きさせないのか。ドイツ人と日本人は、似ているのかと思った。


・普遍的な価値観と旧時代的な価値観が入り乱れているので読み方が難しかった。芸術家に対する皮肉と自分への反省が含まれてるのかなと感じたけどどうなんだろう。本気で「俺カッケー」と思いながら書いてたとしたらちょっと嫌だ。


・映画は何度か見ていたが、こんなに神話の描写が多いとは思わなかった。相手に何も要求しない愛はあると思うが、アシェンバハは美を賛美するだけでなくだんだんと踏み込んでいて、最終的な欲求はなんだったのだろう。自分のプライドと相手への欲望の葛藤や、相手のちょっとした所作への反応が自分に似ていていたたまれなくなった。


・「芸術家は…」「道徳が…」という言葉が連発され、かなり疲れた。良くも悪くも20世紀初頭という書かれた時代の雰囲気を感じた。


・最初は文体になじめず、読み始めるとすぐに眠ってしまった。後半になると、やっと普通に読み進めることができた。中年男性の美少年に対する愛情物語にはよく出会うが、今ひとつ私には理解できない。


・「トニオ・クレエゲル」の方が面白く共感できた。主人公は孤独な芸術の世界で骨身を削りながらも、自分がそこに居場所のない健全で当たり前の生活への憧れや敬意を失っていない。二作を続けて読むと、中年すぎた主人公が、突然健全な生活の側の美に身もふたもなくのめり込み陥落してしまったようにも読める。トニオ・クレエゲルならこんな甘い幻想に身をやつすことはないはずなのに。それが残念。


・詩人と小説家の心情吐露がとても興味深く苦笑したり共感したりした。身を削るような背負うものが大きいような姿はトーマスマン本人に近い人物像なのだろうか。折しも祖母(94)の入院入居を見守りながら読んでいて、自分の死に方をあれこれ考えてみたら、逆算していまの生活態度を反省するよい機会だった。


・トニオ・クレーゲル→内容に共感した。昔は似たようなことで悩んでいたな、とほろ苦い気持ちになった。あの苦悩は永遠に終わらない気がしていたけど、年とったらあっさり終わってしまった。儚い。

ヴェニスに死す→晩年を迎え、終わりの見えた人生の物悲しさ、むなしさをうまく表現している。年甲斐もなく恋にのぼせ上がり自分を見失う滑稽なさまは見るに耐えないのだけど、死に際が幸せそうなので本当に満足のいく生き方ってなんだろうと考えさせられた。人に迷惑かけようが最後くらい好きなことやって死んだらいいと思う。


・最初の方で「聖セバスチャンの殉教」の話が出てくるが、これが意外と伏線かもと思った。


・◇『ヴェニスに死す』妄想を脳内醸成するのは自由だけど、それに対する反応を相手から得ようとするのは厚かましい。そもそも自分の感情を作品内に形象化できなくなった時点でアシェンバハは既に死んでいた。しかし、コレラ蔓延るヴェネツィアの瘴気と老いらくの恋に病んだ作家の妄想力とタドゥツィオの描写から滲み出る「美少年を書きたい」というトーマス・マンのパッションが絡み擦れ熱を帯びてゆく終盤は結構好き。

◇『トニオ・クレーゲル』村田経和の『トーマス・マン 人と思想』(清水書院)を読んだ。リューベックでは中世からの町割りが社会的地位を表していて、「十九世紀にこの町の最も高級な邸に住む人の子が、詩作などという芸術にたずさわるとなれば、それは向こうの町に身を落とすことを意味した」とは、言ってみれば、京都洛中の老舗の呉服屋の一人息子がバンドマンになろうとするようなものか。


・アシェンバハの自己完結っぷりがすごすぎて物語の世界に入っていけなかった。はっきり「不潔」とか「水が臭う」とか書いているのヴェニスの描写が気に入った。アシェンバハは自分の中で「別のタドゥツィオ」を作っていただけで、果たして人間としてのタドゥツイオに興味があったのかどうか。



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イタリアということで、二次会はワインとチーズを楽しめるお店に行きました。みなさま、今月もご参加いただきまことにありがとうございました。



 次回の課題図書は、『高熱隧道』吉村昭(新潮文庫)です。出版社の”徹夜本”フェアで紹介されていたノンフィクション小説ですので面白いこと請け合いです。


 また、6/29(土)には『細雪』、7/7(日)には初の紹介形式の読書会も開催いたします。どの会もたくさんの皆様のご参加をお待ちしております。


【次回以降の開催予定】


★木曜読書会★19:00~21:00

・6/27(木)『高熱隧道』吉村昭(新潮文庫)

・7/25(木)『ジュリアス・シーザー』シェイクスピア(新潮文庫)


★サタデー長編読書会★13:00~15:00

・6/29(土)『細雪(上)(中)(下)』谷崎潤一郎(新潮文庫)


★POPな読書会(紹介形式の読書会)★13:00~15:00

 ※最初に時間を取ってオリジナルの紹介ポップを作ります。

・7/7(日)